管理栄養士が教える!
妊娠糖尿病予防の食べ物と血糖値について
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【妊娠中の血糖値が上がりやすい理由】
通常、食事で食べたものは消化され、炭水化物などの糖質はブドウ糖となり、吸収され、血液中の糖(血糖)として全身にいきわたります。血糖は、多くなりすぎないように、膵臓から分泌されるホルモンのインスリンによって調整されています。
しかし、妊娠すると、高血糖になりやすい状態になります。
赤ちゃんのエネルギー源として血液中の糖分を届けようとするため、胎盤からインスリンを抑えるホルモンが放出されるようになります(インスリン抵抗性)。
高血糖状態を放っておくと、お母さんへの影響としては、流産、早産、妊娠高血圧症候群、赤ちゃんへの影響としては、奇形や巨大児、未熟児、出産時に低血糖や高ビリルビン血症といった症状がでることがあります。 (1
血糖値を気にした極端な糖質制限は、赤ちゃんのエネルギー確保のためには望ましくありません。では、どのように気を付けたらよいのでしょうか?
まず、食べる量の目安として、
が示されています。
こちらには1日にどのくらいの量の食べ物を摂れば良いかが図で表されています。
そしてここからは、量と併せて注意したい、
妊娠糖尿病予防のための食べ物と血糖値を見ていきましょう!
【血糖値を上げる食べ物】
食べ物で主に食後の血糖となるのは、ごはん、パン、麺、また、イモ類、果物、嗜好食品としてのお菓子やジュースがあります。
嗜好食品のお菓子やジュースは過剰に血糖値をあげてしまうため、血糖値を良くしたいなら食べないほうが良いことを先にお伝えしておきます。
そのうえで食べ物の特徴を見ていきましょう。
ごはん、パン、麺などの炭水化物
私たちが主食として毎日食べているのが、ごはん、パン、麺などの炭水化物です。
炭水化物は、糖質と食物繊維の総称で、糖質は消化されると、ブドウ糖へ分解され、血糖値を上げます。食物繊維は吸収されないため血糖にはなりません。
精白米や小麦粉製品(パン、うどん、素麵、パスタ、ラーメン)など、精製された炭水化物は、血糖値を上げやすいです。
イモ類
食事の中にイモ料理が入っているときは注意してください。肉じゃがやコロッケ、カレーやシチューなど。イモ類は皮に食物繊維やビタミンを含むため栄養がありますが、糖質も多く含みます。主食の量と調整して食べることをおすすめします。
果物
ブドウ糖を多く含む果物を食べすぎると血糖値が上がりすぎます。
ブドウ、いちじく、プルーン、柿などはブドウ糖を多く含むため、他の果物に比べて血糖値が上がりやすいです。食べる量に気を付け、少なめに食べるようにしましょう。
缶詰の果物は甘いシロップにつけてあるため血糖値が急上昇します。食べないほうが良いです。
血糖値を気にして、果物は食べないほうが良いか?というと、そうではありません。
果物は、水分、ビタミンC、カリウム、食物繊維の補給に役立ちます。果物を食べている人はあまり果物を食べない人に比べ糖尿病の発症リスクが低いことが海外の論文で明らかになっています。また、果糖はブドウ糖より血糖値の上昇は遅いとされています(3
これらのことから、果物を食べる場合には、ブドウ糖含有量の少ない果物を選ぶこと、 間食にお菓子を食べるのではなく、果物を食べることがおすすめです。
毎日、80キロカロリー程度の果物をお菓子のかわりにとることが良いでしょう。リンゴなら半分、バナナなら1本、小さいみかんなら2個程度です。
菓子パン、お菓子、ジュースなどの砂糖を含むもの
甘い菓子パンやお菓子などの精製された小麦粉と砂糖を多く使った食べ物は、より血糖値を上げます。
これらの食べ物には栄養というものはほとんどありません。高血糖になるばかりか、それらを消化吸収するために、体内にあるビタミンやミネラルを使ってしまいます。ジュースなどの清涼飲料水に使われるブドウ糖果糖液糖は、砂糖よりも早く吸収されるため、より高血糖になります。清涼飲料水を日常的に飲んでいる方は、それをやめるだけで血糖値が改善することがあります。また、カロリーゼロの飲料に含まれる人工甘味料は、甘さの味覚と脳への刺激にズレが生じ、甘いものをもっと欲することも懸念されています。
先にお伝えしましたが、血糖値をよくしたいと思う場合、食べない・飲まないほうが良いです。
しかし、甘いものを好きな方が「食べられない」と思うとストレスを感じることでしょう。 そこで、甘いものと上手に付き合うルールを決めましょう。甘いものを欲したとき、なんとなく食べてしまうことがないようにします。
果物や、はちみつきなこヨーグルトなどを食べる日の他に、運動を頑張った日や一週間頑張った日は特別な甘いものをご褒美にするなど、自分なりのルールを決めることで甘いものと上手に付き合うことができます。生まれてくる赤ちゃんとご自身の体のために挑戦してみてください。
糖尿病のリスクを上げる超加工食品
工業的な過程を経て製造されており、色・風味・食感を調整したり、保存期間を延ばすために様々な食品添加物が使用されている食品は、超加工食品と呼ばれています。糖分・塩分・脂肪分を多く含み、高カロリーなものが多いです。酸化された脂質を含む食品も多く、これらはより糖尿病になりやすくなります。食べないほうが良いです。
清涼飲料水や炭酸飲料水、菓子パン・総菜パン、カップ麺などのインスタント食品、ファストフードのハンバーガー・ポテト・ピザ・チキンナゲット、ポテトチップスなどのスナック菓子、ケーキ・クッキー・ビスケット・パイ・ドーナツ・マフィンなど。賞味期限の長いもの、明らかに工業的に作られたものはよく考えて、食べるかどうか考える習慣をつけてください。
【血糖値を上げにくい食べ物】
ここからは、血糖値を上げにくい食べ物を紹介します。ご自身の生活で使えそうなものを探してみてください。ポイントは、「日頃の食べ物を置き換える」です!
精製されていない炭水化物
主食になる炭水化物でも、食物繊維を含むものは血糖値を上げにくいです。
白ご飯を、玄米、麦入りご飯、雑穀米に変える。
食パンは、ライ麦パンや全粒粉のパンに変える。
麺は、十割そばがお勧めです。
また、精製されていない食物は、ビタミンやミネラルが豊富で、体を酸化から守るポリフェノール類も多く、糖尿病予防に役立ちます。
鶏肉、魚、卵、大豆などのタンパク質
食事中のタンパク質は血糖の上昇を緩やかにする働きがあります。
タンパク質は、体を作るうえで欠かすことができない栄養素です。
肉のタンパク質は栄養価は高いのですが、飽和脂肪酸が多いため、血中の悪玉コレステロールを増やすことにより、食べ続けると糖尿病のリスクを上げてしまいます。
そこで、肉の種類と、量と回数に気を付けましょう。脂質の少ない部位を選ぶこと、毎日肉料理ばかり食べていないか、食事内容を確認してみて下さい。
魚は不飽和脂肪酸を含み、血液をサラサラにする作用があるため、糖尿病予防に役立ちます。大型の魚(カジキ、マグロ、キンメダイなど)は水銀の生物濃縮のために食べる量に注意しましょう(4
また、脂質の少ない植物性の大豆タンパク質も糖尿病予防に役立ちます(5
大豆製品はご飯と一緒に食べることでタンパク質の栄養価が上がります。(6
ご飯に、納豆、豆腐、高野豆腐、大豆の煮物などの、大豆製品を組み合わせると良いです。
牛肉、豚肉、鶏肉、魚、卵、大豆製品等、タンパク質の食材が同じものばかりにならないように、色々なものを食べたいものです。
野菜・海藻・きのこなどの食物繊維
食物繊維は消化吸収されずに大腸まで届く栄養素で、「水溶性」と「不溶性」に分けられます。
水溶性食物繊維は糖質の吸収を緩やかにしてくれます。不溶性食物繊維はよく噛んで食べるため、早食いの防止につながり食後高血糖の上昇を抑えてくれます。
また、脂質やコレステロールの吸収を抑えることで動脈硬化の予防にもつながります。 腸内環境が整えられることで、お腹の中の赤ちゃんの菌叢にも良い影響をあたえることもわかっています。(7
野菜は1日に350g以上(1食あたり120g)を目標にするとよいでしょう。(8
生野菜であれば両手いっぱい、加熱野菜であれば片手いっぱいの量を毎食いただくようなイメージです。
厚生労働省が実施している平成30年国民健康・栄養調査では、女性の野菜摂取量の平均値は約270gでした。20~40歳代では約240gと更に少なくなっています。(9
野菜、きのこ類は、意識して積極的にとるようにしたいものです。
(海藻の昆布やワカメにはヨードが含まれ、過剰に摂りすぎると甲状腺機能低下や甲状腺腫につながる可能性もありますが、日常的に摂取する量では過剰になることはありません。サプリメントやヨードを含むうがい薬などは医師、薬剤師、管理栄養士にご相談ください)
野菜:食物繊維を含む。ビタミン・ミネラルの補給になる。
海藻、こんにゃく:水溶性食物繊維を含む。
きのこ:主に不溶性食物繊維を含む。腸管の老廃物などを排出し腸内環境を整える。
普段のおかずにきのこを足して調理したり、小鉢に野菜のピクルスやきのこのソテー、こんにゃくの煮物などを取り入れてみてはいかがでしょうか。
【血糖値を上げにくくする食べ方】
食事時間を決めて食べる
朝ごはんを抜くことはありませんか?
食事を抜くと、次の食事で血糖値が上がりやすくなります。
朝食を抜くことなく食べるようにしましょう。
食事と食事の時間が短いと、血糖が下がりきる前にまた血糖をあげることになるので高血糖になりやすいです。
また、1日の摂取カロリーが同じであっても、朝食を抜いて2食の場合は1日3食の場合にくらべて体脂肪が増えやすくなることもわかっています。
食事時間が規則的だと血糖値も安定しやすいため、おおよその時間を決めることも大切です。
ベジタブルファーストで食べる
野菜料理 → タンパク質を含むおかず → 炭水化物
食物繊維の多い野菜料理→タンパク質のおかず→炭水化物の順に食べることで、血糖値の上昇を緩やかにする効果が期待できます。野菜はビタミン・ミネラルの補給源です。野菜から食べることを意識すると、食事のバランスにも気を付けることができます。
早食いにならないように食べる
食べる速度も食後の血糖値に関係があります。
食べるのが速いと、同じものを食べても、食後の血糖値が上がりやすくなると言われています。
食物繊維を含む食べ物は歯ごたえがあるため、咀嚼回数を増やし、食べるスピードの調整役になります。またよく噛むことで脳の満腹中枢を刺激し、食べすぎの予防になります。
食事時間は最低でも20分以上は時間をかけて食べることが大事です。もともと早食い傾向の方は、ゆっくり食べることも意識してみてください。一度箸を置いて、よく噛むという方法もおすすめです!
まとめ【血糖値を考えた食べ物選びは、健康のために一生使える!】
炭水化物が多い、タンパク質が少ない、野菜が少ない、食べる時間が不規則、間食が多い…ご自身で気が付いたことがあれば、それはチャンスだと思います。
食後高血糖は、血管を傷つけ、様々な病気のリスクになることがわかっています。妊娠糖尿病予防のために紹介させていただいた内容ではありますが、体の健康を維持するうえでも非常にメリットの多い食習慣になるため、妊娠時期、年齢に限らず、家族全員で取り組んでいただきたい内容だと思います!ぜひ、できそうなところから始めてみてくださいね。
参考文献
- 公益社団法人日本産科婦人科学会
- 厚生労働省
- 果物 | e-ヘルスネット(厚生労働省)
- 厚生労働省 これからママになるあなたへ お魚について知っておいてほしいこと
- 糖尿病ネットワークDiabetes Net.
- 実教出版株式会社オールガイド食品成分表2023 p.23 制限アミノ酸より
- 日経Xwoman
- 「もっと野菜を食べよう」野菜摂取量の見える化の取組結果について:農林水産省
- 野菜、食べていますか? | e-ヘルスネット(厚生労働省)
この記事のライター
大学病院、内科クリニック、総合病院にて勤務し、入院患者さんや糖尿病患者さんの栄養指導の他、減量、食べ方の指導をおこなってきました。
現在は主婦として3人の子育てに奮闘しながら、現代社会の食環境について考えています。
管理栄養士 免許番号 127125
フードスペシャリスト 資格番号 0270053