【助産師が解説】産後の手のしびれ・手の痛みの原因は? 受診目安と解消法を紹介

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産後のママの身体は、本人が思っている以上にダメージを受けており、様々な不調が現われます。手のしびれや痛みは、よくある症状の一つです。2017年の日本助産学会誌に掲載された研究(※1)によると、産後女性の3人に1人が手首の痛みを経験していることが明らかになっています。

赤ちゃんのお世話を優先して、自分の身体のケアを後回しにしていませんか?
大したことないと手のしびれや痛みを放置すると、症状が重くなり、日常生活に支障が出る可能性があります。
今回は、助産師の視点から、産後の手のしびれや痛みの原因、受診の目安、症状の解消法をわかりやすく解説します。

手のしびれや痛みで悩む産後のママの参考になれば幸いです。

産後の手のしびれ・手の痛みの原因は?

産後の手のしびれや痛みには、いくつかの原因が考えられます。主な原因は以下の通りです。

ホルモンバランスの変化

出産後は、妊娠中に増えた女性ホルモンの分泌が急速に低下します。産後の手のしびれや痛みは、ホルモンバランスの変化が一因となっている可能性が高いです。

女性ホルモンのエストロゲンには、コラーゲンの産生を助ける機能、骨を強くする機能があるため、腱や関節が保護されていますが、産後はその機能が低下し、手の痛みが生じやすいです。さらに、妊娠中は赤ちゃんが産道を通りやすいように、筋肉や靭帯を緩めるホルモン「リラキシン」が多く分泌されます。手首などの関節も緩みやすくなる結果、手の痛みが生じやすいのです。

エストロゲンには、体内の様々な臓器の働きを無意識のうちに調節する重要な役割を担う「自律神経」の機能を整える作用があります。しかし、産後にエストロゲン値が低下すると、自律神経の乱れから末梢の血行不良が生じ、むくみによって神経が圧迫され、手のしびれや痛みにつながる可能性があります。

加えて、妊娠中は炎症を抑える作用を持つステロイドホルモン(副腎皮質ホルモン)が多く分泌されますが、産後は分泌量が低下します。その結果、炎症が表面化して痛みが強く出てくることがあるのです。

育児による手首の酷使

産後の手のしびれや痛みの原因として手の酷使が考えられます。
産後は赤ちゃんのお世話で手首を酷使する機会が増えますよね。抱っこ以外にも授乳やミルク、おむつの交換、沐浴など、育児中は手首を長時間使う動作を毎日繰り返します。抱っこなどで手首を長時間同じ姿勢で曲げた状態は、手首周辺の腱や神経が圧迫され、手のしびれや痛みの原因になります。

その他の原因

因果関係は解明されていませんが、初産婦は経産婦に比べて手首の痛みが生じやすいという研究結果があります。また、年齢が上昇するにつれて産後に手首の痛みの出現率が高いというデータがあります。さらに、過去に手首の痛みがあった人は、産後に手首の痛みの出現率が高い傾向にあるのです。

産後の手のしびれ・手の痛みで考えられる病気と受診目安

前の章では、産後の手のしびれと手の痛みの原因を解説しました。産後は腱鞘炎や手根管症候群によって手のしびれや痛みの症状を感じている方も多くいます。腱鞘炎や手根管症候群の病態、症状、セルフチェック法と受診目安を解説します。

腱鞘炎

腱鞘炎は、手の平側の腱が通る「腱鞘」という管が炎症を起こす病気です。腱鞘が腫れて腱の動きが悪くなると、手のひら、指の付け根、前腕にかけて痛みやしびれを感じます。手首で生じる腱鞘炎をドケルバン病と言います。手首の親指側が痛み、力が入らなくなる、腫れるといった症状が出現します。

自分で簡単にできるドケルバン病のチェックとして「アイヒホッフテスト」があります。親指を他の指で包むように軽く握り、親指側を上にした状態から、ゆっくりと手を下の方に向ける際に、手首に強い痛みがあればドケルバン病が疑われます。

手根管症候群

手根管とは解剖学的な名称で、手首の手のひら側にある骨と靭帯に囲まれたトンネルのことを指し、そこに正中神経が通っています。手根管症候群は、靭帯が炎症を起こし、腫れて厚くなった結果、正中神経が圧迫され手指のしびれや痛みが生じる病気です。手のひらから、親指、人差し指、中指、薬指半分のしびれや痛みが起こります。

自分で簡単にできる手根管症候群のチェックとして「ファーレンテスト」があります。胸の前で、左右の手の甲をあわせて手首を直角に曲げてみてください。1分待って、しびれてきたり、しびれが強くなったりする場合は、手根管症候群が疑われます。

産後の手のしびれ・手の痛みで受診する目安とは?

産後の手のしびれや痛みは一過性の症状であることが多いため、症状が軽度の場合は次の章で解説する対処法を実施し様子を見るのもいいでしょう。しかし、症状が強い場合や症状が長引く場合は受診をおすすめします。
次のチェックリストに一つでも当てはまる場合は受診を検討しましょう。整形外科では、投薬やステロイド注射、手術などの治療が可能です。接骨院では、鍼や電気、装具、マッサージ治療が可能です。

【チェックリスト】
– 2週間以上症状が続く
– 症状が徐々に悪化する
– 指の動きがスムーズにできない
– 手や指が動かせなくなる
– 激しい痛みが生じる

今すぐ実践できる産後の手のしびれ・手の痛みの解消法

産後は病院に行くのも一苦労ですよね。症状が軽い場合は次の方法を試してみてください。今すぐ実践できる産後の手のしびれ・手の痛みの解消法を紹介します。

応急処置

手首にしびれや痛みを感じたら次の応急処置を行いましょう。応急処置で症状が改善しない場合は受診を検討してください。

①痛み止めを使用する
市販の湿布薬は授乳中でも使用可能です。湿布薬は内服薬と比べてお母さん自身の血液中に吸収される量が非常に少なくなります。 母乳移行する薬の量はさらに少なく、ごくわずかですので、湿布薬が授乳中の赤ちゃんに影響する可能性は低いと考えられます。
湿布薬がない場合は産院で処方された痛み止めを内服してもいいでしょう。自宅の痛み止めを授乳中に使用してもいいか分からない場合は、「国立生育医療センター 妊娠と薬情報センター」で確認するか、薬剤師や医師に相談しましょう。

②安静にする
手首の負荷を軽減させることが症状改善に効果的です。無理のない範囲で手首を動かさず、安静にしましょう。サポーターがあればサポーターをするのも有効です。

③温めるOR冷やす
一般的に、急性期は冷やして鎮痛をする、慢性期は温めて血行を促進することが効果的とされています。痛い部位を自分で触り、痛くない部位よりも熱く感じる場合は急性期と判断して冷やすといいでしょう。逆に、冷たく感じる場合は慢性期と判断して温めるといいでしょう。

手首のストレッチ

症状が落ち着いていれば、手首のストレッチを行い、こり固まった筋肉をほぐします。簡単なストレッチとして、手のひらを手首の高さまで上げ下げしたり、手を時計回りや反時計回りにゆっくりと回したりするのがいいでしょう。
無理のない範囲でゆっくりとした動作を心がけ、痛みを感じたら直ちに中止しましょう。ストレッチで手首の可動域を広げ、血行やリンパ液の流れを良くすることが、しびれや痛みの解消につながります。

手首の負荷を減らす

手首への負荷となる動作を控えることが症状の改善に重要です。とはいえ、育児をしていると安静は難しいですよね。
手首に優しい抱っこの仕方を紹介します。
赤ちゃんを抱っこする時は、手だけではなく腕全体を使って抱きかかえ、赤ちゃんを体に引き寄せて抱っこします。授乳の時は、クッションで赤ちゃんを支えると手や手首への負担が軽減できます。タオルを重ねるなどして、ちょうどいい高さに調整して使いましょう。

まとめ

産後の手のしびれや痛みは辛いですよね。産後は身体に過度の負担がかかります。手のしびれや痛みで悩む際は、早めの対処と、必要に応じて専門家への相談を心がけましょう。手のしびれや痛みで悩むママが適切なケアで症状が改善することにより、ママも笑顔でお子様と向き合う時間が増えるはずです。

参照1:日本助産学会誌 J. Jpn. Acad. Midwif., Vol. 31, No. 1, 63-70, 2017

この記事のライター

真瀬みなみ

年間500人の赤ちゃんの家庭訪問をする助産師。
総合病院の新生児集中治療室・産科病棟、不妊治療専門クリニックを経験。
2回の転職を経て現職へ。
現在は保健センターで新生児乳児訪問に従事しながら、性教育講師や医療ライター、企業内助産師としても活動する。
趣味は旅行。愛称はじょさんしハムちゃん。ハムスターに似ている。
助産師(免許番号140769号)
看護師(免許番1880932号)
2級ファイナンシャルプラニング技能士