産後に歯がボロボロになるって本当?!理由と予防法を歯科医師が解説!

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「産後は赤ちゃんに栄養が取られて歯がボロボロになる」という話を聞いたことはありませんか?そんな話を聞いたら

「産後、歯がボロボロになっちゃったらどうしよう…」

「しんどい歯の治療を何回も受けないといけないのかな…」

「そもそも妊娠中や産後って歯の治療はできるのかな…」

とわからないことだらけでとても不安になりますよね。

 

今回の記事では、産後に歯がボロボロになると言われる「理由」と「予防法」についてまとめました。記事の後半にご紹介する「予防法」を知っていれば、産後も健康な歯で過ごすことができます。産後の自分の歯が心配なお母さん、ぜひ最後までご覧ください。

産後、歯がボロボロになる人が多い5つの理由

産後のママの口の中のトラブルが多いのは事実です。その理由でよく言われるのが「お腹の中の赤ちゃんにカルシウムが取られてしまうから」という話ですが、実はこれはまったく根拠のないウソの話

では、なぜ産後のママは口の中のトラブルが出やすくなるのでしょうか。それには5つの理由があります。

①妊娠中の歯のケア不足

妊娠中は、つわりの影響でハミガキがしづらくなるため歯に汚れが残りやすくなります。結果虫歯ができやすくなったり、ハグキから血が出る歯肉炎になりやすくなります。

②妊娠中の食事の変化

妊娠中は好きな食べ物・飲み物が大きく変化し、「甘いもの」や「酸っぱいもの」を好む傾向があります。

「甘いもの」が虫歯の原因になるのはわかりやすいですが、「酸っぱいもの」も頻繁に摂ると虫歯の原因になります。なぜなら、酸っぱいものには「硬いものを溶かす」働きがあるからです。

 

「酸っぱいもの」を頻繁に摂ると歯の表層が溶けやすくなり、歯が弱い状態になりますそこに甘いものをたくさん食べて虫歯菌の攻撃が加わることで、歯がカンタンに壊され虫歯ができやすくなります。

 

③妊娠中のホルモンの変化

妊娠中は女性ホルモン(エストロゲン)の量が増える影響で、ツバがネバネバしやすくなります。ネバネバのツバでは歯についた汚れが洗い流されにくくなるため、虫歯や歯肉炎になりやすくなります。

また女性ホルモンの量が増えると「歯周病の原因になる菌」が増えやすくなります歯周病菌は歯ぐきを炎症させるので、さらに歯ぐきが腫れて痛んだり出血しやすくなります。


④食事回数の増加

妊娠中は1日の食事の回数が多くなります。つわりの時期は空腹になると吐き気を感じやすくなるためちょこちょこ何かを食べるようになったり、妊娠の後期は胎児が大きくなることで胃が圧迫され1回に食べれる量が少なくなるからです。

 

実は1日の食事回数が増えると虫歯のリスクが上がります。なぜなら虫歯菌がエサを食べて活動している時間が長くなるからです。1日の食事回数が6回を超えると、虫歯になるリスクが一気に上昇するという研究データもあります。

妊娠中1日の食事回数が多くなるのは仕方がないことなので、歯の質を強くして虫歯菌に壊されにくい状態にしておくことが大切です。

 

⑤産後の歯のケア不足

産後はママ自身の歯みがきがとても疎かになります。赤ちゃんにかかりっきりでゆっくり自分の歯を磨いてる時間がないからです。

特に新生児期(生後1ヶ月まで)は、2〜3時間置きの授乳でママはヘトヘト時間があれば睡眠に当てる必要があり、自分の歯をじっくり丁寧に磨いている時間も体力もありません。結果、虫歯になりやすくなったり、歯ぐきが腫れて血が出る原因になります。

妊娠中〜産後に起こりやすい口の中の変化

 

さまざまな理由によって、妊娠中や産後のママの口の中は以前の状態と比べて変化しやすくなります。

ではどのような変化が起こりやすいかを具体的に見ていきましょう。

①虫歯になりやすくなる

妊娠中(特につわり期)や産後は、ていねいにハミガキができなくなるので歯に汚れが溜まりやすくなります。また甘いものを食べる機会が増えるなどの食生活の変化によっても虫歯になりやすくなります。

過去に詰め物や被せ物を入れてる歯は、より汚れが溜まりやすいため虫歯要注意の場所です

 

②歯ぐきから血が出やすくなる

歯ぐきの近くに汚れが溜まると、そこに菌が繁殖することで歯ぐきが腫れて血が出やすい状態、いわゆる「歯肉炎」になりやすくなります。

 

歯肉炎をそのままにしていると、次のステージの「歯周病」に進行します。歯周病は歯ぐきの腫れが強い状態で、歯ぐきのトラブルだけでなく「早産」や「低体重児出産」の原因にもなってしまいます

 

また歯周病による早産や低体重児出産のリスクは、他の要因(アルコールやタバコ、高齢出産)と比べて7〜8倍も高いと言われています

妊娠中に歯ぐきを健康な状態に保つことは、元気な赤ちゃんを産むためにとても重要なことなんです

グラフ引用元:NPO法人 日本臨床歯周病学会 リーフレット資料

 

③口の中がネバネバする

妊娠中はツバの量が減ったりネバネバしたツバが作られやすくなるため、口の中がねばっこくなります

ネバネバしたツバでは歯についた汚れが流されにくくなるため、歯に食べカス(歯垢)が残りやすく、より口の中がネバネバした感覚になります。

 

④口臭が強くなる

妊娠中は口の中の菌の数が増えます。菌のすみかとなる歯の汚れが溜まりやすくなるからです。口の中の菌には臭いガスを出すものがいます。口の中で増えた菌たちの出すガスによって、妊娠中は口臭が強くなることがあります

 

産後の歯がボロボロにならない予防法 7選

妊娠中はホルモンの変化など、さまざまな理由で歯や歯ぐきにトラブルが出やすくなります。ですが今からご紹介する7つの予防法を知っておけば、産後のママの歯をトラブルから守ることができます。

産後にママが健康な歯でいるための予防法を1つずつチェックしていきましょう

①つわり期に合った歯のケアを行う

妊娠初期はつわりの影響で、今までと同じように歯みがきなどの歯のケアができなくなりがちです。つわりの時期でもラクにできる歯のケア方法に変えるだけで、虫歯や歯肉炎から歯を守ることができます

つわりの時期の歯のケア方法については、過去の記事でくわしくご紹介していますので、ぜひ参考になさってみてください。

■つわりで歯磨きが辛いママ必見!誰でもラクにできる歯のケア方法を徹底解説

https://powwow-ginza.com/media/prenatal/8538/

 

②「甘いもの」「すっぱいもの」をダラダラ食べないようにする

妊娠中の甘いものや酸っぱいものの食べ方によって、より虫歯ができやすくなってしまいます。

歯を虫歯から守るために大切なことは、甘いものや酸っぱいものを「ダラダラ」飲み食べしないことそうするだけで虫歯菌の活動時間を減らすことができるからです。

 

例えば、YouTubeやテレビを見ながらお菓子やジュースをダラダラ食べていると、その間虫歯菌がずっと歯を壊しつづけるため歯へのダメージが大きくなります。

短時間で食べきることを意識するだけで、とても虫歯になりにくくなります

 

③歯みがき粉は「高濃度フッ素」の商品を使う

歯みがき粉を選ぶときに、ぜひチェックしてほしいのが「フッ素の濃度」です。なぜならフッ素の濃度によって虫歯予防の効果に差が出るからです

フッ素は歯の質を強くしたり、虫歯菌を弱らせる働きもあるため、妊娠中にうまくフッ素を活用することで歯を虫歯から守ることができます。

大人用歯みがき粉のフッ素の濃度は「ふつうタイプ」「高濃度タイプ」の2種類あります。「高濃度タイプ」はふつうタイプの約1.5倍フッ素が多く入っているので、より虫歯予防の効果が高い歯みがき粉です。

高濃度タイプの歯磨き粉の商品には「高濃度フッ素配合」や「1450ppm」と表記されているので、歯みがき粉を選ぶ際はこれらの表記が書いているかをぜひチェックしてみてくださいね。

④フッ素の「うがい薬」を使う

カンタンにできて、しかも虫歯予防効果が高い歯のケア方法でオススメなのがフッ素のうがい薬。あまり知られていない方法ですが、1日1回30秒ブクブクうがいするだけで虫歯になりにくくなる、妊娠中〜産後ママの強い味方になるアイテムです

歯みがき粉にもフッ素は入っていますが、うがい薬と合わせて使うことで虫歯予防の効果がより高まります。夜寝る前に使うのが1番効果的ですが、お昼ごはん後やおやつ後などハミガキするのがしんどい時に使うのもオススメですネットですぐ注文できるので、ぜひ日々の歯のケア習慣に取り入れてみてください。

 

⑤スキマ時間にキシリトールガムを噛む

ガムを噛むとツバがよく出るため、歯についた汚れがツバで洗い流されやすくなり虫歯になりにくくなります。甘いガムでも甘味料にキシリトールを100%使ったものであれば、虫歯の原因にはなりません

ミント系のガムで口をさっぱりさせることで、つわりの時期の吐き気が少しラクになったり口のネバネバ感もスッキリします。商品を選ぶ時は「シュガーレス」「キシリトール100%」と書かれたものを選ぶことがポイント!スキマ時間に自分の好きな味のガムを噛む習慣をぜひ作ってみてください。

⑥安定期に歯医者さんで「妊婦歯科健診」を受ける

妊娠中は歯医者さんで「妊婦歯科健診」を受けることができます。歯を細かくチェックしてもらい、異常があれば出産前に治しておくことができます。

歯の治療は、安定期(妊娠5〜7ヶ月)であれば問題なくすすめられますが、妊娠後期(妊娠8ヶ月以降)になると治療内容によってはできない場合もでてきます

つわりが落ち着き安定期に入ったら、歯医者さんに妊婦歯科健診を受けにいきましょう。異常があったとしも、安定期のあいだに治療を終わらせておけば健康な歯で出産を迎えられて安心です。

ほとんどの自治体で歯のチェックの費用は無料ですが、治療が必要になる場合は別途費用がかかります。

自治体によって受診票の配布の仕方や、健診を受けられる期間にちがいがあります。スマートフォンで「(住んでいる地域名)_妊婦歯科健康診査」と入力してお住まいの自治体の情報をぜひ調べてみてください。

 

⑦妊娠中と産後、歯医者さんで「定期クリーニング」を受ける

つわりの時期は十分に歯のケアができなくて当然で、歯に汚れが残ったままの場所が多くなります。歯の汚れの中には大量の菌が住みつくため、そのままにしておくと虫歯や歯肉炎の原因になってしまいます。

安定期に入ったら妊婦歯科健診と「歯のクリーニング」も受けて、歯に溜まっている汚れや歯石をキレイに落としてもらいましょう虫歯や歯肉炎予防になるだけでなく、着色汚れ(黄ばみ)も落としてもらえるので歯が白くツルツルになります。

歯の定期クリーニングを受ける頻度は、歯医者さんに聞けば「◯ヶ月に1回」とあなたに合った頻度を提案してもらえます産後も体力が回復した頃にクリーニングを受けておけば、歯がボロボロになることなく健康な歯を維持することができます。

 

口の中のトラブルが出たときに役立つ5つのポイント



妊娠中〜産後の時期に口の中のトラブルなく過ごせるのが1番ですが、歯や歯ぐきの痛みが出ることもあるかもしれません。

そんな時、知っておくと役に立つ妊娠中〜産後の歯の治療についてのポイントを最後にご紹介します。

「妊娠中って歯の治療はできるの?」

「妊娠中ってレントゲン撮っても大丈夫?」

「産後は歯の治療を受けにいく時間がなさそう…」

などママさんが疑問に感じやすい点をまとめました。

 

【妊娠中】ポイント①治療は「安定期」がすすめやすい

基本的に歯の治療は、「安定期(妊娠5〜7ヶ月)」に行うことが推奨されていますなぜならお腹の赤ちゃんへの影響が少なく、お母さん自身への負担も少ない時期だからです。

妊娠の「初期」や「後期」も治療はできますが、服用できない飲み薬があったり、お腹が大きくなってくると横になっている姿勢がしんどかったりで歯の治療をすすめにくくなります。場合によっては応急処置しかできない場合もあります。

安定期のあいだに歯の治療を受けておけば、歯をすべて治しきることができて安心です。

 

【妊娠中】ポイント②治療時に麻酔を使っても問題ない

麻酔の薬は、通常の使用量だとお腹の赤ちゃんに影響はないため、使っても全く問題ありません逆に麻酔を使用せず、治療の時に痛みを感じる方がストレスとなりお腹の赤ちゃんによくありません。

治療中痛みを感じる時は、遠慮せず手をあげて歯医者さんに知らせましょう。麻酔の量を調整してもらえるので、痛みなく治療をすすめてもらうことができます。

 

【妊娠中】ポイント③飲み薬は服用できないのものがある

歯医者さんで治療後に「抗生物質」や「痛み止め」の飲み薬が出ることがありますが、妊娠中は飲めない種類のおくすりがあります

例えば、痛み止めの代表格「ロキソニン」は妊娠中飲むことができません。代わりに「カロナール」という痛み止めであれば、お腹の赤ちゃんへの影響がないため安心して飲むことができます。

歯医者さんに妊娠中であることを伝えれば、飲んでも問題のない安全な薬の種類を処方してもらうことができます。

 

【妊娠中】ポイント④歯のレントゲンの撮影は問題ない

歯医者さんのレントゲンは、妊娠中に撮っても問題ありませんなぜなら歯医者さんのレントゲンで扱う放射線の量はとても少ないため、お腹の赤ちゃんへの影響はほとんどないからです。

さらに放射線を通さないようにする防護用のエプロンをつけてもらえば、より安全に撮影を受けることができます。

 

【妊娠中】ポイント⑤治療の費用や回数は、状態が軽度だと少なく済む

虫歯は、範囲が小さければ保険治療(1本の歯1,500円前後)で負担の少ない費用で回数も1回で終わります。

一方で虫歯の範囲が大きいと、保険治療でも金額が高くなったり(1本の歯約3,000〜10,000円)治療回数も2〜5回前後と増えてしまいます。

 

歯肉炎も同じで、軽度だと保険治療で1回のクリーニングで終わります。歯ぐきからの出血が多かったりついてる歯石が多いと、2回以上クリーニングを受けに行かなければいけません。

 

歯医者さんに通う回数や費用を極力少なくするには、虫歯も歯肉炎も症状のない軽いうちに治しておくことが重要です。

 

【出産後】ポイント⑥利用しないと損!歯医者さんの「託児サービス」

産後は赤ちゃんに手がかかりっきりで、自分のことは後回しになりがち。歯の調子が悪かったり、クリーニングを受けたくても「赤ちゃん連れていけないし…」と歯医者さんに行けないママさんも少なくありません。

そんな時にぜひ利用してほしいのが歯医者さんの「託児サービス」です。保護者の方が治療を受けている間お子さんを別の場所でお預かりするサービスで、保育士の資格をもった方が見てくれるところもあります

保護者の方は自分の歯の治療やクリーニングに専念することができ、またこどもと離れて過ごす1人の時間は気持ちのリフレッシュにもつながりますかかりつけの歯医者さんで「託児サービス」を利用できるか、ぜひ聞いてみてくださいね。

まとめ

これまでは「出産して自分の歯がボロボロになっちゃったらどうしよう…」と心配でしたよね。

妊娠中は虫歯や歯肉炎になりやすい時期ですが、今回ご紹介した方法で歯をケアしていけば大丈夫です。産後ママの歯がボロボロになることなく、健康な状態で過ごすことができますからね

ぜひ取り組みやすそうなところから試してみてくださいね。応援しています!

この記事のライター

楠原 佑佳

楠原佑佳

歯科医師、医療系YouTuber
平成25年大阪大学歯学部を卒業後、同大学口腔治療・歯周科で研修を終え一般開業医にて勤務。
娘の妊娠・出産・育児を機に、こどもの歯のことで不安な保護者の方々のお悩み相談活動を始める。
令和元年にこどもの虫歯予防事業Lovetoothを設立。お悩み相談はこれまで100名以上。
親子教室の開催やYouTubeチャンネルを通して、誰でもカンタンにできる仕上げみがきの方法など「こどもの歯育てに役立つ情報」を発信している。
現役歯科医師として治療に携わる一方、YouTubeチャンネル「ママ歯科医師ゆかの歯育て学校」(登録者2000人以上)を運営。
その他Instagram、TikTok、Xでもこどもの歯育てに関する情報を発信中。 個別オンライン相談サービスでは、それぞれのご家庭に寄り添ったこどもの歯育てサポートを行っている。
歯科医師 免許番号 171271
幼児心理アドバイザー 資格番号 132743